最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)274号 判決 1965年9月07日
上告人
芳賀ナミ
代理人
中井宗夫
被上告人
株式会社有明社
代表者代表取締役
井出久
内畑運輸株式会社内
被上告人
近藤富夫
被上告人両名代理人
松田正寿
主文
被上告人近藤富夫に対する本件上告を棄却する。
右上告費用は上告人の負担とする。
原判決中、被上告人株式会社有明社に関する部分を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人中井宗夫の上告理由一、について。
上告人は、被上告株式会社有明社は自動車損害賠償保障法三条に基づき損害賠償責任を負担すべき旨主張し、原審は、昭和三五年三月二六日午前九時頃、東京都世田谷区松原町一丁目五〇番地先の甲州街道上で、被上告人近藤富夫操縦の被上告会社所有の荷台付自動二輪車と、右街道を横断中の上告人とが接触し、このため上告人が車道上に転倒し、頭蓋内出血等の傷害を蒙つたが、本件事故当日、被上告会社は、社員の慰安旅行のため休業中であり、被上告人近藤は右旅行に参加せず、被上告会社が保管を委託しておいた横川自転車店より、本件自動二輪車を被上告人会社に無断で借り出し、これを私用のため運転して調布方面へドライブを楽しみ、帰途本件事故を惹起した旨事実を確認の上、右の事実関係にあつては、被上告人近藤の不法行為は、被上告会社の業務執行につきなされたものではないから、結局自動車損害賠償保障法三条所定の損害賠償責任の発生要件は充足されず、同条所定の損害賠償責任は生じない旨判断するものである。
しかし、自動車損害賠償保障法三条の賠償責任に関しては、たとえ事故を生じた当該運行行為が、具体的には第三者の無断運転による場合であつても、自動車の所有者と第三者との間に雇傭関係等密接な関係が存し、かつ日常の自動車の運転および管理状況等から、客観的外形的には、自動車所有者のためにする運行と認められるときは、右自動車所有者は「自己のために自動車を運行の用に供する者」というべく、当該運行行為により他人の生命又は身体を害したことによつて生じた損害を賠償する責に任ずべきものである。(昭和三八年(オ)第九〇三号昭和三九年二月一一日第三小法廷判決、民集一八巻二号三一五頁参照。)
そこで、進んで右の点につき審理を尽し判断を示すべきにかかわらず、これをなさず、前記判断の程度を以て、上告人の主張する被上告会社の自動車損害賠償保障法三条の損害賠償責任を認め得ないとした原判決には、右の点につき必要十分な審理を尽していない違法があり、論旨はこの点で理由がある。
原判決中、被上告人株式会社有明社に関する部分は、破棄を免れず、右に指摘した点につき更に審理を尽させるため、原審に差し戻すべきものとする。
同二、について。
原判決の判断は、その挙示する証拠関係から肯認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用できない。
よつて、被上告人近藤富夫に対する上告は棄却すべく、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(柏原語六 石坂修一 五鬼上堅磐 横田正俊 田中二郎)